茨城県つくば市のつくば国際会議場で行われているRidilover-Social Issue Conference(R-SIC)も1日目はあっという間に終わり、2日目となった。私は都内でのイベントがあったので、午前中だけの参加だったが、簡単に感想をまとめたいと思う。
R-SIC6
Photo by Yoichi SUZUKI


リディラバの考える「社会問題はなぜ起こるのか?」
2日目冒頭、主催者である株式会社Ridiloverの代表である安部さんが社会問題解決のためには、関心の壁、情報の壁、現場の壁の三つの壁があるといった。
教育機関や企業における知り、関心の壁、メディアなどでの情報の壁、NPOなどがもつ現場へのアクセスがその他多くの人には触れられていない現場の壁があるとのこと。


無理せず健康を推進する
最初のセッションの登壇者であるロート製薬さんのプレゼンの中で、無理をしないで簡単に健康を推進することに参加できるようにしていくことの重要性があると伝えていた。これは、社会運動における参加に関するハードルをさげる必要性があることにも通ずることだと思った。


人間の最大の死因は孤独だ
株式会社Fincの溝口さんは、元々フィットネス・トレーナーをしていた。 その経験の中で、人間は体力が落ちたり、腰痛や膝を悪くするなどで外界との接点がなくなり、死へと近づいていく。そうした中で、ジムでかかわれるその人への時間は限られていて、日常生活全体に関わることは難しい。そこで、モバイルを通じたサービスをはじめたということだ。


社会にフィードバックする仕組みをつくる
株式会社ジーンクエストの高橋さんの講演で、個人向けのゲノム解析サービスを行っており、4-5万円の遺伝子解析キットを送るだけで1か月程度で病気のリスクや先祖の関する情報を受け取れるというものだ。また、遺伝子情報を匿名にしたうえで、研究を行い、遺伝子分析と研究をミックスし、その成果を社会にフィードバックしていくことができるという。


ソーシャル・マーケッティング
モデレーターのキャンサースキャンの福吉さんは、以前、洗剤のマーケッティングをしていた。他者との違いが大きくないものを差別化し、売っていくという作業だった。 留学中に知ったソーシャル・マーケッティングは違った。科学的にそれはすればよいということ。(例えばガン検診を受けると死亡リスクを必ず低くできる) ただ、それをみなは行おうとしていない。 それをみんなが参加したいと思わせるようにする。そうした社会的意義のある営業活動に魅力を感じたという。非常に共感した。
ただ、市場を考えたときに、社会的なイシューに対する世論の姿勢は、マーケッティングをする際の容易さを変える要素だとも思う。アメリカやオーストラリアで活動していた時に感じた、社会問題に対する一般の人々の参加の姿勢の高さは、ソーシャル・マーケッティングをする際には後押しになるだろう。
日本においては、社会問題にかかわる人々が協力して、日本社会の市場をより社会問題に取り組みやすく変えていく協調をしていく必要があるのではないかと思う。


年齢の異なる人のチームへの巻き込み方
株式会社Fincの溝口さんは30代。 Fincは経営者が3人いるそうなのだが、30代前半の溝口さん以外の50代、60代だった。自分よりも倍以上年齢が異なる人をどう巻き込んだのか。溝口さんいわく、「30代は給与など経済的な要因を考えてしまうが、50代を超えると後世に何を残すのかを考え始める人がいる。その点をお願いとともに、”この会社は5年、10年後には急成長する。参加せずに70歳になった時には絶対後悔しますよ。”と迫ったそうだ。世代を超えた多様なチームを作ったことは、世代間交流の少ない日本社会の中では望ましい戦略方針だと思った。


ファクトベースで訴えること
Fincの溝口さんは資金調達をする際に、ファクト(数値)を明確に示すことで投資家の説得することの重要性を訴えていた。これは、市民活動における啓発にも同様に言える重要な要素だと思う。もちろん、ファクトだけでなく、共感も忘れてはけないが。


海外事例へのアクセス-日本にも絶対やってくる
医療業界では、欧米の方が数年進んでいることがあるそうだ。だからこそ、業界でリーダーシップをとっている人は、英語での情報にアクセスしている。ジーンクエストの高橋さんいわく、遺伝子関係では5年程度欧米の方が進んでいる。そして、それが日本にもやってくるそうだ。
また、他の地域や文化を持つ国なので、新しいイノベーションを生もうとしている動きと触れていく頃、日本で動けない場合は日本という枠を超えてしまうこと、そして、後に日本に帰ってくるみたいな認識も重要なのではないかと登壇者は話していた。
これは、市民活動でもいえることで、諸外国での事例に触れ、そこから学び、日本の中で発信していくことは重要だろう。


午前二つ目は教育のセッション
午前二つ目のセッションは教育に関してでした。司会はR-SICお馴染みの津田大介さん。
サブタイトルが「Moocs時代の具ローカルな教育」だった。そもそも、Moocsって何?が私の最初の疑問だった。
ググりました。Massive open online courseの略で、オンラインで誰もが無料で受講できる講義のことだそうだ。
講演者がこちらも毎度おなじみのつむぎやの友廣さん、e-Educationの三輪さん、株式会社リクルート マーケッティング パートナーズの山口さん、立命館アジア太平洋大学事務局長の村上さんだった。


海外事例を日本のローカルに
e-Educationは、バングラデシュの農村で行っていた映像を使った教育支援の方法を用いて、島根県吉賀町の中学校にて同様に映像を使った事業を展開している。島根県吉賀町は限界集落であり、生徒の人数が減ってきていた。その結果、一人の教員がカバーしなければならない課目が多くなっていた。そうした際に、映像授業の事業展開を行っている。
こうした海外でのケーススタディを国内と海外の社会問題における事業者のコラボレーションの有用性を示しているように思う。


国際NGOの参加は少ない
過去3年間、R-SICに参加してきて思うことは、国内の社会問題にかかわるNPOの参加は多く見てきた。ただ、海外支援を行っているNGOのスタッフが参加している姿を見つけることは少なかった。 e-Educationのように、国内外関係なく、社会的不条理の問題に取り組むという姿勢こそが、南北の境なく格差が広がる中で重要なように思う。ただ、圧倒的に国際NGOからの参加者が少ないことが残念に思う。


海外にも広がるITと教育のコラボレーション
株式会社リクルート マーケッティング パートナーズもe-Educationのように「受験サプリ」に表されるように、ウェブを用いた教育サービスの提供を行っており、日本国内だけでなく、インドネシアなどでも広がりを見せている。
*なお、e-Eduicatuonとは協力関係にあるそうで、リクルート マーケッティング パートナーズの山口さんとe-Educationの三輪の言葉を借りれば、インターネットで配信できるところはリクルート マーケッティング パートナーズ、そうしたインフラがないところはe-Educationが行っているそうだ。
イベントでは触れられていなかったが、こうした事例で入れることは、インドネシアもバングラデシュも初等教育の取り組みがすでにあるということだ。ユネスコによるグローバルモニタリングレポート[2015]によれば、バングラデシュの青少年の識字率は53%(1995年から2004年では45%)、インドネシアは99%[2015](1995年から2004年は99%)。なお、バングラデシュの成人識字率は62%[2015](なお1995年から2004年だと47%。バングラデシュは市民社会セクターの教育への取り組みは盛ん。)、インドネシアの青年識字率は94%[2015]である。
インドネシアの場合は、初等教育ですでに識字率が高いからこそ、企業として市場に参入しやすかったというのもあるのではないかと思う。バングラデシュの場合は、教育に対する政府や現地の市民社会の動きもある、そうした中で、外部団体としてその手伝いをするということに利点もあったのではないかと思う。
企業とNGOの役割分担を考えれば、企業が参画するうえでの市場環境をつくるという際にNGOが果たせる役割は高いだろうし、こうした他のアクターとの関係を見るとそれぞれの存在意義も変わってくるのだろう。


NPOの真価は協働できるパートナーをどれだけ見つけられるか
e-Educationの三輪さんが言っていた言葉だが、「NPOの真価は競合相手と対立するという以上に、協働できるパートナーをどれだけ見つけられるか」「大きな動きをつくるために、自分の力だけで行うのではなく、多くの人と流れをつくることが重要」というのは、本当にその通りだと思う。
社会を変える上で重要なことは「共に」変革を目指していくということだ。彼の言葉は、社会的課題の解決をめざし、そのために共に活動していくという、NPOの目指すべき姿を示しているように思う。


教育と自己肯定感
教育のセッションで最後のまとめで出てきたことで「自己肯定感」という言葉が出てきた。
教育の中で、子どもや生徒たちが自分に対する自信をどうつくっていけるかは、やはり課題のようだ。
この件に関しては別の記事にもしているので、その点が確認できてよかった。


垣根が低いAPU
立命館アジア太平洋大学の特徴として、学生と教職員の垣根が低いということを挙げられていた。
日本では、その分断が大きくなりがちな点を、一緒に大学をつくってきたという歴史と学生の半数ののぼる留学生の存在で乗り越えているように感じた。
欧米の大学における学生の社会変革運動を見てきた経験からも、自分の大学に対する主体性、そして、異なる世代との対話が容易であることは、これからのグローバルな時代の中で異なる文化や世代の人々と交流をしていく機会が多くなる中で非常に重要な要素だと思う。また、社会変革をつくっていくうえでもこうした多様な価値観に触れられ、対話によって育っていくコミュニティ環境は重要なように思う。


R-SICと社会運動モデル
R-SICは、株式会社であるリディラバが主催しているので、「サービスデリバリー」や「ビジネスモデル」という点で「社会的事業の経営者・経営幹部」が集まるというのは致し方ないという気もするが、社会運動的アプローチをとる人間としては、そうした視点からのインプットがもっとできればと思った。
*私が参加していないセッションで、湯浅誠さんが登壇しているので、彼がそうした役割を果たしているのかもしれない。
ただ、社会的不条理に対して、その克服を行うことを社会的企業と捉える、いわゆる欧州大陸型の社会企業モデというよりも、社会的企業といった時にイノベーションをベースに活動資金のカバーを念頭に置いていたアメリカ型の社会企業モデルを意識している参加者が多いように感じるので、これはこれでいいのかもしれない。
(参考 秋山 紗絵子、岩手大学大学院人文社会科学研究科「日本における社会的企業論の現状と課題」 岩手大学大学院人文社会科学研究科 2011年6月)
*ウェブから閲覧できるのでお勧めです。 


人が社会を変える
R-SICに集まる人々に触れて思ったことは、アプローチが異なっていたり、対象分野が異なっていても同じく社会的課題に関わる人とのつながれる場はお互いにとってプラスになるということであり、日本社会ではセクターやイシューによって分断されがちであり、こうした人と人を繋ぐ場は貴重なのだろう。
そして、場があることとともに、それをつくっていく人の重要性を感じた。
私が敬愛するアニメ「銀河英雄伝」にこんなセリフがある。

「つまりは、人は人にしたがうのであって、理念や制度にしたがうのではないということかな」(ヤン・ウェンリー)
「人間は主義だの思想だののためには戦わないんだよ!主義や思想を体現した人のために戦うんだ。革命のために戦うのではなくて、革命家のために戦うんだ。」(ダスティ・アッテンボロー)

もちろん、この作品は日本人が作ったもので、日本的なコンテクストで書かれていることを差し引かなければならないが、前回の投稿でも紹介した通り、オーストラリアのフェアトレード・アクティビスト育成のワークショップで言われた通り、「社会を変えるというとき、それはあなたの性格や文脈からはじまる」ということなのだと思う。

どんなに崇高なことを言っていても、それを話している人間の人柄が次第でそのメッセージの力は変わるのだろう。


共に行動するスタートラインとしてのカンファレンス
過去、R-SICに参加し、その場で出会った人々が協働を始めた話はたびたび聞いた。私も講演をした年に、参加者として来ていた学校の先生からその後に講演に及びいただいたことがあった。 今回のR-SICでも多くの協働事例が生まれるかもしれない。(また、これまでのR-SICで出会ったTeach For Japanの松田さんをはじめ、知り合った人々と再会ができ、また、活動の進捗を聞くことができた。こうして社会的活動に情熱を持つ人々の話を聞くことで自分にも刺激を得られ、非常に良かった。)

こうして、人々が共に行動するスタートラインとしてのカンファレンスとして、R-SICは非常に貴重な存在なのだと思う。

学生のころに世界銀行がサポートした若者のネットワークYDP Japan Networkというものがあった。当時、その理事をしていたのだが、毎年、全国から世界の平和や人権、貧困問題に取り組む若者が集まり、そこからいくつかの全国的な共同事業も生まれた。
今、そうした学生や若者を対象にしたカンファレンスはない。

利益や損得以上に、身軽に動けるはずの学生や若者向けのこうした場がないことは非常に残念だ。
ユースを軸に置いた国内外の社会問題にかかわる人々向けのカンファレンスを企画しているというのもこうした背景があったからだ。 今回、R-SICに参加して、改めて、自分の活動に対する思いが確認できてよかったと思う。